ITエンジニアの皆さんの中には「SES還元率」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。還元率はSES企業での給与や報酬に直結する重要な指標ですが、その計算方法や業界の実情を正しく把握している人は意外と少ないかもしれません。
本記事では、SES還元率の基本から平均・相場、そして注意点までを詳しく解説していきます。これからSES業界で働きたいと考えている方や、既にSESに従事していて待遇を見直したい方の参考になれば幸いです。
そもそもSESにおける単価・還元率とは?

まず、SESにおける「単価」とは、SES企業が顧客企業でエンジニア1人を1ヶ月間(1人月)就労する代わりに請求する金額のことを指します。この「SES単価」は顧客企業がSES企業に支払うものであり、エンジニア自身が手取りとして受け取る金額(給与)とは異なる点に注意が必要です。
一方、「SES還元率」とは、前述のSES単価(顧客企業がSES企業に支払う報酬)のうち、実際にエンジニアへ支払われる割合を示しています。たとえば、顧客企業からの報酬が100万円で還元率が70%の場合は、エンジニアは給与として70万円を受け取り、残りの30万円を企業がマージンとして受け取る計算になります。
還元率が高いほどエンジニアが受け取る金額は大きくなるため、SES企業の待遇を判断する上で非常に重要な指標です。
SES単価の平均・相場は?

厚生労働省が公表している「令和4年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」によれば、エンジニア派遣が含まれる「情報処理・通信技術者」における令和4年度の平均単価(1日8時間労働換算)は32,871円とされています。1ヶ月(20~22日、厳密には173.8時間)に換算すると、約714,122円です。
同じ資料では、全業務平均の1日あたり平均単価が24,909円(1ヶ月換算で約541,148円)となっているため、派遣職種の中でもエンジニアは比較的高単価であることがわかります。
引用元 : 令和4年度 労働者派遣事業報告書の集計結果|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11654000/001234776.pdf
ただし、この金額はあくまでも「顧客企業がSES企業に支払う単価」であり、実際にエンジニアが受け取る金額(給与)とは違います。エンジニアの手取りを決めるのは還元率およびその内訳であるため、同じ平均単価でも実際の報酬は大きく異なる可能性があります。
SES単価の還元率の平均は?

現在、SES企業のエンジニアへの還元率を正確に示す公的な統計は存在しません。厚生労働省や経済産業省のデータからはIT業界全体の平均賃金や売上高などを把握することはできるものの、「SESの還元率」だけを対象としたデータは集計されていないのが実情です。
一方で、エンジニアコミュニティや各種口コミサイトなど非公式な情報を総合すると、SESにおけるエンジニアへの還元率はおおむね「65%程度」が平均的という声が多く上がっています。低いところでは50%台、高いところでは80%近くになる場合もありますが、大半の企業は60~70%付近に落ち着く傾向があるようです。
ただし後述しますが、還元率の定義や計算方法には注意が必要です。企業ごとに還元率の計算に含める費用(社会保険料や交通費など)が異なるため、単純比較は難しい面もあります。特に「高還元率」をうたっていても、福利厚生や教育制度が十分でないケース、あるいはそれらの諸費用が引かれる前の段階で還元率を算出しているケースもあります。
SES企業における還元率の定義

SES還元率の計算方法は、企業ごとにルールが異なることが多いです。
SES還元率の基本的な計算式は、実はとてもシンプルです。以下の式が基本形となります。
エンジニア報酬 = SES単価 × SES還元率
たとえば、
- SES還元率:70%
- クライアントからの報酬(SES単価):100万円
という前提であれば、
100万円 × 0.7 = 70万円
となり、70万円がエンジニアへ還元される“基準額”になります。
このように見ればシンプルな計算式ですが、実際には社会保険料や交通費、福利厚生費などが、会社ではなくエンジニアの報酬から控除され、実質の還元率が変動するケースがあります。
- 例: SES単価100万円、還元率70%、諸経費20万円の場合
単価100万円 × 還元率70% = 70万円
70万円 − 諸経費20万円 = 50万円
→ この場合、実質的な還元率は 50%(50万円 ÷ 100万円)になります。
また、求人サイトでは「還元率80%!」と高還元率の記載があった場合も、あくまで上限値としての還元率であり、実態は大きく下回るようなケースもあります。
このように、SES企業によっては「還元率〇〇%」と聞いていても、経費負担の有無によって、実際の手取りが想定と異なる場合があります。入社前の段階で、還元率の定義や経費・福利厚生の扱い、社内の平均還元率などをきちんと確認しておくことが非常に大切です。
単価や還元率の高い企業はどう探す? なかなか教えてくれないって本当?

ここまで、SES単価や還元率の平均・算出方法について解説してきました。実際に「なるべく高単価で高還元率の優良企業で働きたい!」と考えるエンジニアは多いと思いますが、問題はそういった企業をどう見つけるか、ということです。
実際のところ、SES企業のなかには「エンジニアに支払われる報酬の内訳や実質的な還元率」を公表していないところも少なくありません。採用面談などで直接尋ねても、回答を渋られるケースがあるのも事実です。企業が還元率の計算方法を開示しない主な理由としては、次のようなものが挙げられます。
1.現場エンジニアからの不満を防ぐため
SES企業の利益は、顧客企業から受け取る単価とエンジニアに支払う給与との差額です。還元率を完全にオープンにすると、自社のエンジニアが顧客企業への請求額と自分の給与を直接比較してしまい、モチベーション低下や離職につながるリスクが高まります。そのため、還元率を非公開や幅をもたせた公開にしている企業が一定数存在するのです。
2.エンジニアからの給与交渉を避けるため
エンジニアが自分の単価を把握した場合、「もっと給与が高くてもいいのでは?」と交渉してくる可能性が高まります。企業としては、余計な交渉を避けるため、計算方法を開示したくないことがあります。
3.効果的な採用を行うため
特に「還元率の上限値」だけを強調して採用している企業は、平均値や下限値、エンジニア単価などを一切公開しないケースがあります。高い数値だけ見せることで魅力的に映りやすくなるためです。さらに実際には諸経費を控除している可能性もありますから、企業の説明を鵜呑みにせず、詳細を確認することが大切です。
4.顧客企業からの単価交渉を防ぐため
還元率を企業が公開すると、その情報は顧客企業の耳にも入ります。もしマージンが大きいとわかれば、顧客企業は「もう少し単価を下げられるのでは?」と交渉してくるでしょう。こうした事態を避けるために、あえて非公開を貫いている場合もあります。
とはいえ、近年は「自社のマージン率や還元率の計算方法を、少なくとも採用面接の場では明示する」という透明性の高いホワイトなSES企業も増えつつあります。情報をオープンにしている企業は、それだけ従業員との信頼関係を重視しているともいえます。
「単価の還元率が高い=給料が高い」と思い込むのは要注意

ここまで解説したように、SESエンジニアの報酬は一般的に他業種・他職種と比べて高い傾向がある一方、実際の給与額はSES企業の還元率や、その内訳によって左右されます。同じ「還元率70%」であっても、
- 諸経費が控除される
- その他福利厚生費の負担率が異なる
- 平均値ではなく上限値を記載している
などで、実際に受け取れる金額は変わってきます。そのため、「還元率〇〇%!」という数字だけを見て「ここなら給料が高そう」と単純に判断するのは危険です。還元率の内訳をしっかり確認し、「実際どのように給与が計算されるのか」を企業に確かめることが重要になります。
まとめ

- SES単価 とは、顧客企業がSES企業でエンジニア1人が1ヶ月就労する際に支払う金額のこと。
- 還元率 とは、SES単価に対して実際にエンジニアへ支払われる割合。
- SES還元率の平均は約65%(特定派遣のマージン率平均35%からの参考値)で、SES単価の平均相場は月約70万円(厚生労働省調べ)と言われている。
- 還元率の計算方法 は会社ごとに異なり、経費の扱いによって手取りが変わる場合がある。
- SES企業によっては計算式を公表しないところも多いので、実際の数字だけでなく、内訳を含めて確認することが望ましい。
- 高還元率=高給 とは限らない。
還元率をうのみにするのではなく、経費や福利厚生の詳細、上限だけでなく平均還元率も事前にチェックしよう。