SES企業への転職・就職を検討しているITエンジニアの方であれば、一度は「還元率」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。 一般的には「高還元率のSES企業=給料アップにつながる」というイメージを持たれがちですが、実際はそれほど単純ではありません。還元率と言っても、さまざまな計算方法が存在するためです。
本記事では、ITエンジニアの還元率(SES還元率)に関する基本的な概念から、平均・相場、さらには高還元率が必ずしも給料アップにつながらない理由についてわかりやすく解説していきます。また、企業が還元率の内訳を開示したがらない背景や注意点にも触れ、どのように「ホワイトなSES企業」を見極めるかのヒントを提供します。SES企業選びで失敗しないためにも、最後までお読みいただき、透明性の高いSES企業を見つける参考にしてみてください。
エンジニアの還元率とは?

エンジニアの「還元率」とは、SES企業がエンジニアをクライアント先に派遣した際にクライアントから受け取る「人月単価(SES単価)※」のうち、実際にエンジニア側に報酬として還元される割合を指します。
以下のような例で考えてみましょう。たとえば、
- SES還元率:70%
- クライアントからの報酬(SES単価):100万円
という前提であれば、
この場合の「基準」となるエンジニア報酬は、
100万円 × 0.7 = 70万円
となり、残りの30万円は企業側の取り分(マージン)となります。 一見すると、「還元率が高ければ高いほど、手取りも増えそう」と思うかもしれませんが、実際にはそこから経費やが引かれるケースが多いため、「最終的な手取り額」とは限らないという点に注意しましょう。
※人月単価(SES単価)とは?
1人のエンジニアが1ヶ月稼働することで発生するコストを指します。IT業界のプロジェクト見積もりなどでは、ごく一般的に用いられる計算方法です。
エンジニアの還元率の平均・相場を知ろう

当サイトの独自調査によれば、SES単価の平均は約70万円、還元率の平均はおよそ65という結果が出ています。もし還元率が70%を超えてくるようであれば、業界的には「高還元率」の部類に入るといえるでしょう。もっとも、これはあくまでも一つの目安に過ぎません。
ここで重要なのは、「還元率×人月単価=実際の月給」ではないという点です。
SES企業によっては、還元率をエンジニアの手取り以外の項目に割り当てている場合があり、経費や保険料が引かれてしまうことも少なくありません。 高還元率だと一見魅力的に映るものの、最終的な受取額をしっかりと確認しないと、想定よりも手取りが少なくなるというギャップが生じる可能性があります。
※詳細情報
SES単価や還元率の一般的な計算方法や高還元SESの裏側については、下記の記事もご覧ください。

還元率が高いと給料は上がるのか?

結論からいうと、「還元率が高ければ給料も高い」とは限りません。還元率と実際の給料の差分がある例として、社会保険料や交通費、福利厚生費など、エンジニアが業務を行ううえで必要なコストをエンジニア報酬から控除するケースが挙げられます。
- 例: SES単価100万円、還元率70%、諸経費20万円の場合
この場合、
100万円 × 70% = 70万円
70万円 − 20万円 = 50万円
が最終的な給与となり、実質的な還元率は 50万円 ÷ 100万円 = 50% となります。 「還元率70%」と聞いていたのに、実質は50%だった…ということも珍しくありません。また、求人サイトや採用HPで還元率をチェックしていた場合、入社時点で提示される還元率が異なる場合もあります。これは、掲げていた還元率はあくまで上限値であり、実際の平均値はそれより低かった、といった採用文句として還元率が掲載されていたケースです。このように、高還元率を掲げる企業であっても、さまざまな要素によって最終的な手取り額が下がるケースは珍しくありません。SES企業を選ぶ際には、こうした仕組みを理解したうえで、「本当に給料が上がるのか」を見極める必要があります。
企業が還元率の内訳を開示したがらない理由

「高還元率」を宣伝している企業が、その具体的な内訳を積極的に教えてくれないのはなぜでしょうか。そこには、企業のビジネスモデルや戦略上の理由があります。
(1)現場エンジニアからあがる不満を防ぐため
SES企業はクライアントからの単価とエンジニアの給与との差額を利益(マージン)として確保しています。もし還元率を完全に公開すると、エンジニアが自分の給与と請求額を直接比較し、不満やモチベーション低下につながるリスクが高まります。 そのため、還元率を曖昧に公表したり、全く公表しない企業も少なくありません。
(2)エンジニアからの給与交渉を避けるため
エンジニアが実際の単価を知ってしまえば、「自分にはもっと高い給与が見合うのではないか」と交渉に持ち込むことが容易になります。企業としては、こうした余計な交渉を避けたい思惑があるため、詳細を公表しないケースがあります。
(3)効果的な採用を図るため
上限値だけを掲げて平均や下限を明かさない、あるいはSES単価そのものを伏せる企業は、数字上の“魅力“を打ち出して採用を有利に進めたいと考えています。 例えば、「還元率80%」という高い数値を宣伝していても、それはごく一部の案件だけだったり、諸経費が別途差し引かれる可能性があるため、実際の手取りはそれほど多くないというパターンもあります。
(4)クライアントからの単価交渉を防ぐため
還元率を公開すれば、クライアント企業も「SES企業がどのくらい利益を取っているか」を簡単に把握できます。その結果、「もっと単価を下げられるのでは?」と交渉される恐れがあるため、非公開を貫く企業も少なくありません。
(5)コスト説明の困難さ
SES企業には営業・管理・福利厚生・教育研修などのさまざまな間接コストがあります。それらをすべて公開しても、エンジニア側が正しく理解できるとは限らず、かえって「自分が損をしている」と感じさせてしまう危険があります。
結果的にトラブルを避けるため、詳細を非公開にしている場合もあるのです。
とはいえ近年では、エンジニアからの透明性ニーズが高まっていることから、還元率やその内訳を開示し、報酬モデルやキャリアアップに応じた給与上昇を明確に提示している企業も増えてきています。
転職や就職活動の際には、こうした情報をオープンにしている企業を中心にリサーチしてみると、入社後のギャップを最小限に抑えられるでしょう。
まとめ

- エンジニアの還元率(SES還元率)とは クライアントから支払われる人月単価のうち、エンジニアが報酬として受け取る割合のこと。
- 還元率の平均・相場は約60%前後。70%を超えると高還元率と言われるが、あくまで目安。
- 高還元率=給料アップ、ではない。経費の控除などにより、結果的な手取りは下がる可能性がある。
- ホワイト企業の見極め方としては、還元率や内訳を明示し、エンジニアに情報をオープンにしている企業を探すのがおすすめ。
SES企業への就職・転職を検討する際、「数値上の還元率」だけで判断するのはリスクが高いと言えます。大切なのは、その企業がどれだけ情報を透明に開示し、エンジニアの疑問にきちんと答えてくれるかです。また、長期的に見て納得できる給与体系やキャリアパスを提示しているかどうかも大きなポイントになります。こうした視点を持って企業を比較検討することで、後悔のない転職・就職先選びに近づけるはずです。今後SES企業への転職・就職をお考えの際には、ぜひ本記事を参考にしていただき、自分に合ったホワイト企業を見つけてください。