SES企業の求人を探す際、頻繁に目にするキーワードの一つに「還元率」があります。
一般的に、この還元率は「クライアント(顧客企業)からSES企業が受け取る金額のうち、どの程度の割合がITエンジニアの給与として支払われるのか」を示すものです。
ITエンジニアにとって非常に重要なこの指標については、
- 「もっと高い還元率を提示しているSES企業へ転職したら、給料もしっかり増えるの?」
- 「そもそもSES還元率って、どんなふうに計算されているの?」
といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。本記事では、SES還元率の基本的な考え方や計算方法、注意すべきポイントを丁寧に解説していきます。表面的な数字に惑わされず、還元率の内訳や計算プロセスを正しく理解することで、より納得のいくキャリア選択が可能になります。SES企業への就職・転職を検討される方は、ぜひ参考にしてください。
SESの還元率=給与ではないという前提

まず大前提として押さえておきたいのは、「SES還元率=そのままの給与額ではない」という事実です。SES還元率とは、エンジニアがクライアント先で稼働した結果として発生する「SES単価」(企業が顧客企業に請求する報酬)のうち、エンジニアに還元される割合を指します。
しかし、冒頭でお伝えした通り、還元率が直接的に「手取り額」を意味するわけではありません。一般的にSES企業では、クライアントから支払われる報酬の一部をエンジニア報酬として割り当て、残りを企業側のマージンや運営費に充てる形をとります。このとき、SES還元率はあくまでも“基準となる取り分の割合“であり、実際の給与(手取り)には社会保険料・交通費・福利厚生費、残業代などが差し引かれたりする可能性があるのです。
※補足
「SES単価」やその平均・相場については、下記の記事でも詳しく解説しています。気になる方はそちらもご参照ください。
[SES単価の還元率の平均・相場は? 計算方法や高還元SESの裏側を解説 <記事リンク>]
SES還元率の正しい計算方法

SES還元率の基本的な計算式は、実はとてもシンプルです。以下の式が基本形となります。
エンジニア報酬 = SES単価 × SES還元率
たとえば、
- SES還元率:70%
- クライアントからの報酬(SES単価):100万円
という前提であれば、
100万円 × 0.7 = 70万円
となり、70万円がエンジニアへ還元される“基準額“になります。ただし、この70万円がそのまま「月々の給与」になるわけではない点に注意が必要です。企業によっては、そこから社保や交通費などを控除する形をとる場合があるため、同じ「還元率70%」でも、最終的な手取り額には差が出る可能性があります。
先ほど述べたように、SES還元率が高いからといって必ずしも実際の給与が高いとは限らないのがポイントです。還元率と乖離が大きく生じる要因として、社会保険料や交通費、福利厚生費などが、会社負担ではなくエンジニアの報酬から控除される場合があることが挙げられます。
例: SES単価100万円、還元率70%、諸経費20万円の場合
計算上のエンジニア報酬は
100万円 × 70% = 70万円
となりますが、さらにここから諸経費20万円が引かれて
70万円 − 20万円 = 50万円
が最終的な給与(手取り)となります。
結果として実質的な還元率は 50万円 ÷ 100万円 = 50%となり、表向きの70%からは下がってしまいます。また、求人サイトや採用HPで還元率をチェックしていた場合、入社時点で提示される還元率が異なる場合もあります。これは、掲げていた還元率はあくまで上限値であり、実際の平均値はそれより低かった、といった採用文句として還元率が掲載されていたケースです。このように、同じ「還元率70%」という数字を掲げていても、企業によっては最終手取りが異なるのが現実です。実際の運用ルールを確認しないまま入社すると、「還元率が高いと思っていたのに、思ったほど稼げなかった…」という事態に陥りやすいので注意が必要です。
還元率と比べ実際の給与が下がるケースとその要因

「高還元率=高給与」は誤り?
ここまでの内容を踏まえると、SES企業が公表する数値上の高還元率は、必ずしも高給与を保証するものではないことがわかります。たとえば「還元率80%以上!」と大々的に謳っていても、実際に内訳をよく見てみると、経費負担といった複雑な要素で手取り額が思ったほど多くないというケースも珍しくありません。結局のところ、「高還元率=高給与」という単純な図式は成り立ちにくいと考えたほうが賢明です。大切なのは、企業が公表している数値の内訳をどれだけ透明に開示しているかという点です。入社前の面談や書面で、以下のような点を確認するとよいでしょう。
- 還元率の根拠(どこからどこまでがエンジニア取り分なのか)
- 経費や福利厚生費の扱い(会社が負担するのか、エンジニア報酬から差し引かれるのか)
- 公開されている還元率の詳細(平均値七日上限値なのか)
しっかりと説明がなされない場合は、入社後に「こんなはずではなかった」と後悔する可能性があります。不明点を遠慮なく質問し、回答をきちんと得られる企業を選ぶことが、納得のいくキャリア選択には欠かせません。
還元率の平均値と信頼できる企業の見極め方

弊社独自の調査によれば「65%程度」が平均的(※)とみられます。もちろん、それを超えるような高い還元率を提示している企業もありますが、その“実質“がどうなっているかは精査しなければわかりません。そこで着目すべきは、以下のような企業姿勢です。
1.還元率を完全・具体的に公開していること
「SES単価の○○万円に対して、エンジニア報酬はいくら」といった、金額ベースの開示がある。
2.還元率の内訳を明確に説明できること
「福利厚生費は会社負担」「交通費は別途支給」など、どこからどこまでが実質のエンジニア報酬になるのかを示す。
3.昇給やキャリアパスに応じて還元率(または給与)にどう影響があるかを説明できること
「スキルアップや資格取得などによって報酬がどう変わるか」を具体的に説明してくれる。
こうした項目をきちんと説明してくれる企業は、従業員のモチベーションや納得感を重視している、いわゆる“ホワイト企業“である可能性が高いです。反対に、下記のような企業には注意が必要かもしれません。
- 還元率に関する質問への回答が曖昧、もしくははぐらかす
- 還元率の「最大値」だけを強調し、平均や下限をまったく公開しない
- 実際の昇給例や賞与の仕組みが不透明
このように数字の“高さ“だけではなく、情報の“透明度“に目を向けると、より後悔のない企業選びができるでしょう。
※補足
還元率の平均や相場については、下記でも解説しています。興味のある方はぜひご確認ください。

まとめ

- SESの還元率=給与額ではない
- 経費が還元率から差し引かれる可能性があるため、表面上の数値と実際の給与が合致しないことがある。
- 計算式はシンプルだが、企業によって最終的な手取りは変わる
- 「SES単価 × SES還元率」で基準額はわかるが、会社ごとのルール(経費負担など)によって実質的な報酬は異なる。
- 「高還元率=高給与」は誤り
- 数字に惑わされるのではなく、実際の内訳や計算プロセスを確認することが重要。
- 平均還元率は約60%前後
- 70%以上あれば高還元率といえるが、あくまで目安。最も大切なのは内訳と透明性。
- 優良企業の見極め方
- 還元率の具体的な根拠を開示しているか、経費を含めた説明があるか、昇給・キャリアパスに関する情報が明確か、といった点に注目すると良い。
SES企業への転職や就職を考える際、「長期的に見て自分が納得できる報酬体系かどうか」は非常に重要です。そのためには、還元率の数字に飛びつく前に、情報開示を丁寧に行っている企業かどうかを見極めることが不可欠です。誠実な企業ほど、入社後のギャップも少なく、エンジニアとして安心してキャリアを築きやすいでしょう。ぜひ本記事を参考に、還元率の仕組みや計算方法を正しく理解したうえで、自分に合ったSES企業を見つけてください。エンジニアとしての更なる成長とキャリアアップに繋げられるよう、情報収集を怠らずに進めていきましょう。