エンジニアとしてキャリアを積むうえで、「SES(システムエンジニアリングサービス)の単価相場」は気になるトピックの一つではないでしょうか。エンジニアがクライアント先で稼働する際、SES企業はクライアントから受け取る「人月単価(SES単価)」をベースに売上を計上し、そこからエンジニアの給与や会社の利益を捻出しているのが一般的です。
しかし、求人情報や企業サイトを見ても具体的な金額が明示されていなかったり、「抽象的な表現だけが掲載されていたりと、なかなか実情が分かりにくいと感じる方も多いでしょう。
そこで本記事では、SESの単価相場がどの程度なのか、さらに単価とエンジニアの給与にはどのような関連があるのかを詳しく解説します。また、SES単価を上げるためにエンジニアが取るべき施策やポイントについても触れていきますので、これからSES企業へ転職・就職を考えている方や、すでにSESで働いていてキャリアアップを目指す方は、ぜひ最後までお読みいただき、よりよい働き方を見つけるヒントにしてください。
SESの単価相場は?

前提として、SESとはシステム開発や保守・運用などの業務を行うエンジニアをクライアント先へ常駐させる形で提供するサービスです。エンジニアが1ヶ月(1人月)稼働することでクライアントがSES企業に支払う報酬額を「SES単価(人月単価)」と呼びます。ここでは、まずその金額相場を確認してみましょう。
公的なデータから見る相場
SESの単価相場を正確に把握するため、まずは公的機関が発表しているデータを参考にします。厚生労働省が公表している「令和4年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」によれば、エンジニア派遣が含まれる「情報処理・通信技術者」の平均賃金(1日8時間労働換算)は約32,871円です。
月に換算すると、20〜22日勤務でおよそ65〜72万円ほど。これを一つの目安として、SES企業がクライアントから受け取る単価も月70万円前後が平均的と推測されます。
引用元 : 令和4年度 労働者派遣事業報告書の集計結果|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11654000/001234776.pdf
ただし、この統計は全体の数字であり実務上はエンジニアのスキルレベルや経験年数、担当プロジェクトの規模・難易度、クライアント企業の予算などによって単価は変動します。
一般的な目安
エンジニア派遣やSESの相場を総合的に見ると、月60〜80万円のレンジに収まる案件が多いとされています。ただし後述しますが、エンジニア自体の技術レベルや領域に依存するケースが多く、例えば初心者・ジュニアクラスの場合は月50万円台、シニアクラスのエンジニアの場合は月100万円を超えることもあります。
また近年はクラウド、AI、データサイエンスなど専門性の高い分野に携わるエンジニアの需要が高まりつつあり、これらのスキルを持っている場合も月100万円を超える高単価を提示されることも珍しくありません。
SESの単価はどのように決まる?
では、具体的にSESの単価はどのような要素によって決まるのでしょうか。会社やプロジェクトごとに多少の違いはありますが、一般的には以下のポイントが大きく影響します。
1. エンジニアのスキル・経験
最も重要と言っても過言ではないのが、エンジニア自身のスキルレベルや経験年数です。たとえば、プログラミング言語の習熟度やフレームワークの知識、プロジェクトマネジメントの経験などによって、SES企業がクライアントに提示する単価は変動します。
前述の通りですが、一般的な目安として下記のような整理がなされます。開発経験が1〜2年程度のジュニアクラスと、5年以上の豊富な経験を持つシニアクラスでは、数十万円以上の差がつくことも珍しくありません。
ジュニアエンジニア(経験1〜2年程度)
- 技術力イメージ:特定の技術を学習中、もしくは小規模案件の経験が中心
- 想定単価レンジ:月50〜60万円程度
- 案件イメージ:「Webサービスの運用保守案件」「既存システムの改修案件」
ミドルエンジニア(経験3〜5年程度)
- 技術力イメージ:一定の開発経験・システムエンジニア経験があり、単価アップが見込める
- 想定単価レンジ:月60〜80万円程度
- 案件イメージ:「モダンフレームワークを活用した新規開発」「AWSを活用した新規・改修開発」
シニアエンジニア(経験5年以上)
- 技術力イメージ:顧客折衝やPM経験、先端技術の知見もあり、高額単価交渉も狙える
- 想定単価レンジ:月80〜100万円以上
- 案件イメージ:「大規模システムの要件定義・基本設計」「AI/クラウド分野のアーキテクト案件」
2. 技術分野・専門領域
扱う技術分野や専門領域の需要も大きく影響します。たとえば、レガシーな技術からモダンなクラウド技術、AI/MLといった先端分野へ移行が進む中、スキルをキャッチアップできているエンジニアは高い単価を維持しやすくなります。
一方、需要が落ちつつあるレガシー技術しか扱えないエンジニアの場合、同じ経験年数でも単価が伸び悩む可能性があります。
3. 地域・案件の業務内容
SES単価は、地域や業務内容によっても大きく異なります。
地域
- 首都圏(特に東京):IT企業やスタートアップが集積しており、案件数が多い分、エンジニアが足りず、単価相場が高め。
- 地方:首都圏に比べて企業数や大規模プロジェクトが少ない傾向があるため、エンジニア余りが発生し、単価が下がるケースが多い。
業務内容
- コードを書いているか、開発言語、業界歴で差が出る。なお、業種によっては大きな差は出ない。
4. 契約形態・マージン構造
SESの取り扱い契約形態は「準委任契約」や「請負契約」「派遣契約」などさまざまですが、多重下請け構造が存在する業界でもあります。間に仲介企業が多いほど、クライアントが支払う金額とエンジニアが受け取る報酬の差が大きくなる傾向があり、SES単価自体が不当に安くなるケースや、逆に最終エンジニア報酬が圧縮されるケースも存在します。
SES単価は、エンジニア本人のスキルとは直接関係ない部分でも上下し得るという点を理解しておきましょう。

SES単価と還元率・給与の関係性

ここまでは「クライアントがSES企業に支払う金額」であるSES単価について解説してきました。しかし、エンジニアとしては「最終的に自分の手取りがどのくらいになるのか」が重要です。では、単価と給与はどのように関係しているのでしょうか?
SES単価 × 還元率 = エンジニア報酬
基本的な計算式は下記のとおりです。
エンジニア報酬 = SES単価 × 還元率
たとえば、SES単価が月100万円で、還元率が70%の場合、エンジニア報酬は70万円が「基準額」となります。しかし、この還元率が高ければ高いほど給与に直結するとは限らない、という点に注意が必要です。
高還元率でも注意が必要
近年、SES企業の中には「還元率○○%」といった高還元率をアピールしているところも増えています。しかし、高還元率であっても実際の手取り額がそこまで高くないというケースは珍しくありません。具体的には以下のような点に注意が必要です。
- 経費や保険料が引かれる
- 還元率が実は“上限値”で、平均は低い
- 運用保守、ヘルプデスク等、低単価案件が中心となっている
こうした要素によって、結果的に還元率が高いと言われる企業でも、エンジニアが思ったほど稼げない場合があるのです。特に、SES単価が極端に低い案件ばかりを扱う企業では、還元率が高くてもエンジニアの収入は伸び悩むでしょう。
※還元率の実態についてより詳細を知りたい方は下記もご参照ください。

SES単価を上げるには?

「SES単価がエンジニアの給与に直接影響することは分かった。では、単価を上げるためには具体的にどうすればいいのか?」という疑問を持つ方も多いでしょう。ここでは、エンジニア個人が意識できるアプローチを中心に解説します。
1. スキルアップ・資格取得で専門性を高める
SES単価を左右する最も大きな要因は、前述したとおりエンジニアのスキル・経験です。
一定の経験を重ねることで自然と単価が上がることも期待できますが、特に、需要が高い最新技術や専門性の高い分野(例:クラウド、AI、データサイエンス、セキュリティ、DX関連など)を習得することで、高単価案件にアサインされる可能性が格段に高まります。
また、プロジェクトマネジメントやアーキテクチャ設計など、経験がモノを言う領域をしっかり身につけることで、SES企業にとっても「高い単価で企業へ推薦しやすいエンジニア」へと成長できるでしょう。
2. コミュニケーション能力を磨き、リーダーシップを発揮する
技術的なスキルだけでなく、コミュニケーション能力やチームマネジメント力も単価アップに寄与します。要件定義や顧客折衝ができるエンジニアは、企業側も高い報酬を提示しやすいものです。具体的には以下のポイントを意識するとよいでしょう。
- プロジェクトリーダーやサブリーダーのポジションを積極的に経験する
- 他部署やクライアントとの調整業務を主体的に行う
- 課題管理や進捗管理に対して適切なコミュニケーションを取る
「技術ができるだけ」ではなく「プロジェクトを前進させられるエンジニア」として評価されることで、より高い単価を求めやすくなります。
3. 自社との交渉・情報開示を求める
これは単価より還元率に直結する話ですが、SESエンジニアの立場からすると、企業との交渉も重要です。自分が稼働しているプロジェクトの単価やマージン率を知ることで、給与アップのための具体的な話ができる場合があります。
多くのSES企業では、単価や還元率の情報を伏せるところも少なくありません。
しかし、最近はエンジニア確保のためにある程度オープンにする企業も増えつつあります。もし情報が開示されない場合は、面談時や昇給査定のタイミングで正当な根拠を示しながら交渉することが大切です。
4. 転職・複数企業の比較検討
SES単価は企業によってまちまちです。もし現職のSES企業でいくら頑張っても単価や給与が上がらないと感じるのであれば、転職してより高い単価を提示している企業を探すことも選択肢の一つです。
特に、エンジニア不足が深刻な状態の企業や急成長中のベンチャー企業などでは、高めの単価を設定しているケースがあるほか、昇給やインセンティブ制度が整っている場合もあります。数社と比較しながら、自分にとって最適な報酬とキャリア支援を得られる環境を見極めましょう。
ただし、長期的な視点で見れば、案件のバリエーションやスキルアップの機会が多い企業のほうが、結果として高い収入とやりがいを得られるケースも多々あります。転職の際は単に「給与だけ」を見るのではなく、教育体制やキャリアパス、担当する案件の種類などを総合的に検討しましょう。
まとめ

SES単価はエンジニアのスキルや案件内容、地域・業種などによって大きく幅があり、平均としては月60〜80万円前後が相場とされています。
一方で、単価=エンジニアの給与ではないという点にも注意が必要です。SES単価はあくまで「クライアントがSES企業へ支払う金額」であり、最終的にエンジニアに還元される報酬は、還元率や企業のマージン率、さらには経費や税金の負担などで大きく変動します。
SES単価と給与を最大化するために大切なポイント
- 需要が高く、専門性のあるスキルを身につける
- AI、クラウド、セキュリティ、DX関連など、新技術へのキャッチアップは大きな武器になる。
- コミュニケーション力・マネジメント力を磨く
- プロジェクトを牽引できる人材は、単価交渉で有利な立場を得られる。
- 情報の透明性を確認し、企業との交渉を行う
- SES単価や還元率をオープンにする企業が増えている。分からないままにしないことが重要。
- 転職や複数企業の比較検討も視野に入れる
- 1社でのキャリアアップに限界を感じたら、より条件の良い環境を探すことは決して悪いことではない。
最終的に、「自分のスキルと経験が正当に評価される環境を選べるかどうか」が、SESエンジニアとしての収入を左右します。何に注力すれば単価が上がるのかを戦略的に考え、日々のスキルアップや企業との交渉などを積み重ねていきましょう。
SES単価の仕組みと給与の関連性を正しく理解したうえで、納得のいくキャリアパスを歩んでみてください。